WEB限定 書き下ろし小説

ショーンの騎士団本部案内!

「……まずいわね」
 ベルは親指を口に当て、爪を噛んでいた。
「……何が?」
 アーエスが顔をのぞき見る。
「このままじゃ、シャーミアンにショーンを取られるわよ」
「……ま……さ……か?」
 アーエスは、天と地が入れ替わってもありえない、と言いたそうな表情になった。
「甘い! 甘い、甘い、甘い、甘い、もひとつおまけに甘ーいっ!」
 ベルはビシッと人さし指を突きつける。
「シャーミアンはね、ぬいぐるみ集めてたりするし、普通の女の子とはちょーっと違うのよ! きっと、あの目にはショーンがかっこよく見えたりするんだわ!」
「……いや……普通の……女の子と……違うのは……むしろ……ベルで……シャーミアンは……」
 ぬいぐるみを集めるのは、別に変わったことではないと思うアーエス。
「ともかく!」
 ベルはさえぎった。
「ショーンがシャーミアンとくっついて、あたしたちといっしょに帰らなくなったら、買い食いしたい放題の優雅な放課後生活はどうなるのよ!」
「お金持ち……なんだから……自分で……買えば……」
「いい、アーエス? よく聞きなさい」
 ベルはふふんと髪をかき上げた。
「お金はね、使うんじゃないの。使わせるものなの! 特に、あたしみたいなとびきりの美少女は!」
「……強欲」
 さすがのアーエスもあきれ果てる。
「だいたい、お金のことだけじゃないのよ。あいつがいないと、宿題は誰がやるの? 荷物運びは? 教室の掃除は?」
「なるほど」
 アーエスはあっさりと納得した。
 二人とも、自分でやるという発想はないようである。
「で……具体的には?」
「ショーンに大恥かかせて、シャーミアンに嫌われるようにするのよ」
「なるほど」
 二人はこそこそと打ち合わせを始めた。

         *         *         *

「きゃああああーっ!」
 ベルの悲鳴が騎士団本部に響き渡ったのは、『星見の塔』の生徒のみんなが中庭に出て、騎士たちの訓練の様子の説明を受けている時だった。
「!」
 シャーミアンが剣のつかに手をかけて、悲鳴が聞こえてきた厩舎の裏の方に向かって走る。
「お前たちはここで待っているんだ!」
 ショーンはみんなにそう告げると、他の騎士たちといっしょにシャーミアンの後を追った。
 さらに、その後に続くのはアーエスとキャットだ。
 すると。
「たーすーけーてぇー!」
 ベルはサイクロプス??目玉がひとつで、角が一本、身長が普通の人間の四倍ほどもある巨人??の腕の中にいた。
「ああ、かっこいいショーン君! お願い、わたしを助けて!」
 駆け寄ってきたショーンを見ると、ベルはまるでセリフを読み上げるように言った。
「……ああ……大変だ……ベルが……怪物に……捕まって……しまったー」
 アーエスがわざとらしく説明する。
「まあ、なんということでしょう! あんな怪物、どこから現われたのか、見当もつきませんわ!」
 そう言ったのは、かなり演技が下手なキャット。
「……こんな感じでよろしいですの?」
 キャットはこっそりとアーエスに確認する。