WEB限定 書き下ろし小説

ショーン、人生最大の危機!?

5

「……?」
 気がつくと、ショーンは冷たい湿った床の上に横たわっていた。
(確か、僕はイスで眠って……)
 あたりは真っ暗。
 だが、ここがさっきまでいた寝室ではないことだけは感じ取れる。
「シャーミアン殿?」
 ショーンは、そばにいるはずだった副団長を呼んだ。
「ここだ」
 背中で声。
 目が暗闇に慣れるのを待って、体をねじって肩越しに振り返ると、シャーミアンも同じように縛られて床に転がされている様子がぼんやりと見えてきた。
 あたりには、火のついていない暖炉や扉もある。
 どうやらここは、狭い小屋の中らしい。
「どうなっている?」
 ショーンは尋ねた。
「くっ! 一生の不覚だ!」
 シャーミアンは額を床に打ちつけ、唇を噛む。
「居眠りをしていたら、気がつかないうちに縛り上げられていたんだ」
(……兄上たちがこの人をからかう理由が、だんだん分かってきた)
 ショーンはため息をつく。
「つまり、僕らはさらわれた訳だな? 脅迫上を送ってきた犯人たちに?」
「……面目ない」
 沈んだ声のシャーミアン。
「屋敷のまわりは、騎士たちに見張らせていたのだが……」
「手引きする者がいたのだろう。おそらく、屋敷に勤めてまだ日の浅い料理人だな」
 ショーンはなんとか体を起こそうとするが、なにせ運動音痴。腹筋が弱いのでなかなかうまくいかない。
「料理人?」
 シャーミアンは聞き返す。
「運ばれても気がつかないくらいに深く眠ってしまったということは、夕食の料理に眠り薬が混ぜられたと考えるべきだ。長くから屋敷で働いている者がそんなことをするとは思えないから、雇われて間もないやつだろう。見張りの騎士たちにも、そいつが同じ料理を出したに違いない」
「冷静な推理だな、ショーン殿」
 感心したようにシャーミアンは言った。
「これ以上女装を続けなくていいのでホッとしているせいか、いつもよりも頭が働くのだ」
 と、ショーンが説明したところで。
 ギイッと扉が開き、たいまつの明かりがあたりを照らし出した。