WEB限定 書き下ろし小説

ショーン、人生最大の危機!?

6

 ショーンとシャーミアンはまぶしさに目を細めながらも、たいまつを持った男たちを見る。
 全部で五人。どいつも人相のよくない連中だが、見知った顔もある。
 右目に眼帯をした盗賊、ヴォッグ・ヴォルドが一味のひとりなのだ。
「誘拐犯……さんたちね?」
 犯人たちがまだ間違った人間を誘拐したことに気がついていないことを祈りつつ、ショーンは女の子っぽい声でヴォッグに話しかける。
「お前?」
 ヴォッグはショーンを見つめ、首をひねった。
「トリシアの子分の、なんとかって言う貴族のアホ……」
(ま、まずい! バレた!)
 ショーンの顔から血の気が引く。
「……に似てるな」
「へ?」
「だが、あいつに妹がいるとは聞いていねえしなあ……きっと気のせいだろ」
 ヴォッグは頭をかくと、ショーンの体を引き起こし、壁に寄りかからせた。
(よかったー、バカで)
 脚をそろえて女の子っぽく座り直したショーンは、心の中でホッと息をつく。
「ヴォッグ・ヴォルド。お前がここにいるということは、黒幕はおしゃべりフクロウか?」
 シャーミアンがヴォッグをにらむ。
 自称、美少女怪盗おしゃべりフクロウ。盗賊ヴォッグ・ヴォルドと悪徳商人マイルズ・マイヤーズは、彼女の子分としてよく知られているのだ。
「あのな、俺様がいつもおしゃべりフクロウと組んでると思うなよ」
 ヴォッグは傷ついたように顔をしかめた。
「おしゃべりフクロウの姉御は、今度の計画とは関係ねえ。こいつあ、ちょっとした小遣い稼ぎだ」
 ヴォッグは声をひそめて続ける。
「ここだけの話だけどよ。あの小娘、うるさいんだ。泥棒はいいけど、誘拐は可哀想だからダメだとか言ってよ。けど正直、俺はそんなことにかまっちゃられねえんだよ。家賃も三か月たまってるし、女房と子供は実家に帰っちまうし。分かるか? まじめに盗賊ひとすじで働いてきた男の苦労が?」
 ヴォッグは鼻をすすった。
「で、おしゃべりフクロウ抜きの仕事を探してたら、この連中が俺様に声をかけてくれてな。みんな、友情に厚い善良なやつらたちだぜ!」
 ヴォッグの後ろに立っていた他の誘拐犯たちも、みんな似たような境遇なのか、腕組みをしてうんうんと頷いた。
「誘拐犯のどこが善人だ!?」
 思わず突っ込むシャーミアン。
「あのな、悪党にも義理堅い良い悪党と、悪い悪党がいるんだぞ? 俺たちは良い悪党。その証拠に、お前ら、怪我ひとつしてねえだろが?」
 ヴォッグは首を振りながらチッチと舌を鳴らすと、ショーンの肩に手を置いて、仲間たちを振り返る。
「おうしっ! この可愛い子ちゃんと不器用そうな間抜けメイドの身代金を、みんなで山分けだ」
「おーっ!」
 誘拐犯たちはこぶしを振り上げた。
「不器用そうって言うな! それに私は間抜けじゃない!」
 シャーミアンは抗議する。
「ここに担いでくる間中、大いびきをかいてたくせに?」
 ニイッと笑うヴォッグ。
「う、嘘だ!」
 シャーミアンの顔が真っ赤になる。
「ほんとだって」
「間違いねえ」
「うるさいのなんの」
 誘拐犯の全員が頷いた。
「……それで?」
 ショーンが犯人たちを見渡した。
「身代金はどうやって受け取るつもりなのかしら?」
「ああっと、それは……まだ考えてないと言うか。そうだな、誘拐までの段取りは完璧だったんだが、その後のことは……ちょっと相談」
 困った顔になったヴォッグは仲間と肩を組んだ。
「どうする? 誰かが取りに行くか?」
「捕まるのは嫌だぞ? お前が行け」
「お、俺は悪党の中でも超有名人だからな。そう言うお前が行け」
「俺はあの屋敷に潜り込むために料理の練習までしたんだぞ? 他の誰かが行くべきだろ?」
 ひそひそと話し合う犯人たちだが、なかなか意見がまとまらない。
「ねえ、みなさん。ここに持ってきてもらうのはどうかしら?」
 ショーンはすかさず言った。どうやら女の子言葉も板についてきたようだ。
「なるほど!」
 ヴォッグはポンと手を打った。
「じゃあ、手紙を書いてだな。……おい、誰か字の書けるやつ?」
「俺が書く。脅迫状を書いたのも俺だしな」
 犯人のうちのひとりが進み出て、ペンと羊皮紙を取り出して、机に向かう。
「お金を届けてもらうなら、ちゃんとここの住所も書くのですよ」
 ショーンは付け加える。
「お、そうか!? 可愛い子ちゃん、お前、頭いいな」
 誘拐犯はパチンと指を鳴らすと、手紙を書き終えて、もうひとりに渡した。
「そいつをこっそり、屋敷に置いてくるんだぞ。いいな?」
 ヴォッグがポンと背中を叩いて、手紙を持った男を小屋から送り出す。
「後は身代金が届くのを待つだけか。くくくくく……」
 ヴォッグは肩を震わせて笑った。