WEB限定 書き下ろし小説

セドリック、はりきる!

5

 その頃。
「お前、医者だろが! 早く手当しろって言ってんだよ!」
 空き地では、手当をしているトリシアに向かって男がどなっていました。
 その男は腕にぶつけたようでしたが、大した傷ではありません。
「少し待って。こっちの子が先なの」
 トリシアの目の前には、頭にけがをした女の子が横たわっています。
「痛いんだよ! さっさとしろ!」
 男はトリシアの肩をつかみます。
「……この子のけがの方がひどいのよ」
 トリシアは女の子に聞こえないように、声をひそめますが、男はそんなことにはお構いなしです。
「俺のけがが軽いってんなら、先に診たっていいだろうが!」
 男はトリシアを放しません。
 と、そこに。
「君、おとなしく順番を待っていた方がいいよー」
 セドリックが現れて、男の手を握りました。
「……言っておくけど、手を握ったのは、君が好きだからじゃないからね」
「邪魔すんじゃねえ!」
 男はセドリックの手を振り払います。
「邪魔をしてるのは、僕じゃないよ」
 セドリックは金髪をかき上げ、クルリと回ってから男を指さします。
「……君さ」