WEB限定 書き下ろし小説

セドリック、はりきる!

6

「うるせえ!」
 男はセドリックを乱暴に突き飛ばしました。
「ととと!」
 セドリックはよろけて、後ろで手当てをしていたアーエスを踏みそうになります。
「まあまあ、落ち着いて。痛いのは分かるよ。この優雅で勇敢な僕でさえ、痛いのは泣くほど嫌いだからね」
 セドリックはそれでもひるまずに、男とトリシアの間に入ろうとしました。
「お前は関係ないだろうが!」
 ガッ!
 男のこぶしがセドリックの顔に当たります。
 ひっくり返ったセドリックは、そのまま男の足にしがみつきました。
「か、関係なくはないさ! 今はそっちの子を助けなきゃ!」
 セドリックは男をズルズルと引っ張って、治癒魔法を必死でかけ続けるトリシアから引き離そうとます。
「こ、こいつ!」
 男は何度も足を振りますが、セドリックは決して離れません。
「大切なのは命だよ! それを僕に教えてくれたのが、トリシア嬢なんだ!」
 セドリックはギュッと目をつむって続けます。
「だから僕はトリシア嬢を信じる! 君も信じるんだ!」
「!」
 男はもう一度こぶしを振り上げましたが、やがて、力なくその手をおろしました。
「……分かった、待ってやる。も、もう少しだけな。」
 男は頭を振ると、その場に座り込みました。
「なあ」
 男は、あおむけにひっくり返ったセドリックにたずねます。
「あの子、助かるかな?」
「そりゃあ、トリシア嬢は名医だからね」
 右目をはれ上がらせたセドリックは、グッと親指を立てて見せました。