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レン、騎士をめざす!

5

 定期の入団試験と違い、告知の期間が短かったので、入団希望者はそれほど多くはなかった。
 とはいえ、試験当日、騎士団本部に集まった受験者は40名。
 そのほとんどが若い貴族だ。
「き、緊張する」
 中庭に整列し、レンの隣に立ったショーンは青ざめていた。
「大丈夫だって」
 レンは安心させるように声をかける。
「午前中はまず筆記試験だし、その内容だって『星見の塔』でも習ったような歴史や法律が中心だろ?」
「わ、分かってはいる。自信がないわけでないんだが――」
 ショーンは頷いたが、その顔は強ばっている。
「はい、受験者は監督官の指示の従って会場に!」
 若い騎士が名前と顔を確認し、筆記試験の会場へ案内する。
 筆記試験の会場は、騎士団本部本館1階の食堂。
 レンとショーンは指定された席に着いた。
 あたりを見渡すと、ほとんどの受験者は試験の直前まで法律書を暗記したり、歴史の年表に目を通したりしている。
「レン殿は法律書や歴史書を持ってきていないのか?」
 山ほど本を抱えてきたショーンは、レンがペンだけを机に置くのを見て目を丸くする。
「直前に詰め込んだ知識は、本当の知識とは言えない」
「……うむ。アンリ殿の教えはそうであったな」
 ショーンもうなずき、開きかけていた歴史書を閉じる。
 と、その時。
「あれ~、ここは貴族じゃなくても受けられるんだ?」
「白天馬騎士団も落ちたもんだねえ」
「一緒に受ける僕らの品位まで疑われちゃうよ」
 会場の真ん中に陣取っている貴族の青年たちの会話が、レンたちの耳に飛び込んできた。
「ああいう奴には身の程を教え込まないといけないなあ。まあ、どうせ実技までは残れないだろうがね」
「ああした連中と同じに扱われるのは不愉快だよ」
 貴族たちは大声で笑う。
 わざと聞こえるように言っているとしか思えない。
「っ!」
 レンよりもショーンが先に立ち上がり、嫌味を並べ立てる青年貴族たちに突っかかろうとする。
「ショーン」
 レンがそんな後輩の腕をつかむ。
「僕らは、僕らのやるべきことをやろう」
「しかし!」
「気にしなくていいよ。貴族に嫌味を言われるのには慣れているから大丈夫。でも、ありがとう」
 レンは微笑んだ。
「君みたいな貴族もいるって分かってるしね」
「レン殿……」
「さあ、机の上の物をしまえ! 始めるぞ!」
 問題用紙を抱えたシャーミアンがやってきて、パンパンと手を叩いた。