WEB限定 書き下ろし小説

大混乱、ダッシュの新生活

4

しばらくして。
ダッシュはレンや三兄弟、シャーミアンとともに騎士団長の前に立っていた。
「……オニキス・ドラゴン、とはな」
ブスッとした顔のダッシュを見つめ、騎士団長は目を丸くする。
「俺さ、暴れる気はないし、この街に住んでも構わないだろ?」
ダッシュは机に手を突いて、身を乗り出した。
「父上。ドラゴンを恐れる者も多いだろうが、私はこのダッシュなら信用してもいいと思っている」
プリアモンドが頷いて口ぞえする。
「ああ、こいつは頭は悪いが、少なくともセドリックよりは良いことと悪いことの区別はつくぞ」
リュシアンも、あまり助け船にならない助け船を出した。
「ともかく、面白そうじゃない?」
エティエンヌは相変わらず、気楽な調子だ。
「…………分かった」
しばらくして、団長は首を縦に振ると、人差し指と中指を立てて見せた。
「ただ、ふたつ条件がある」
「ふたつ?」
ダッシュは首を傾げる。
「ひとつは騎士団員となって働くこと」
「お、俺が騎士団員?」
「レンと組むのがいいだろう。半人前がふたりで一人前だ」
「まあ……レンが構わないなら」
ダッシュはちょっと不安そうな目をレンに向ける。
「改めてよろしく、ダッシュ」
レンは笑顔で手を差し出した。
「……ああ、相棒」
ダッシュは言葉に詰まりながら、その手を握り返す。
「で、もうひとつの条件って何?」
エティエンヌが団長に尋ねる。
「彼の監督役を副団長、君が務めることだ」
団長はシャーミアンを見た。
「………………はい?」
シャーミアンは、一瞬、なんと言われたのか理解できないようだった。
「本日以降、オニキス・ドラゴンのダシールが問題を起こした場合、その責任は君が取るのだよ」
団長は笑みを浮かべる。
「せ、責任!?」
「つまりだ。彼が何かやらかしたら、君はその被害を自分の給料から弁償するように。正直、騎士団の予算は限られているからな」
「そんな無茶な!」
ようやくことの重大さに気がつき、シャーミアンの声は裏返った。
「まあ、こいつらの世話よりは楽だろう?」
団長は三兄弟を指さす。
それはそうですけど!」
「頑張ってくれたまえ。君には大いに期待しているよ。……さてと」
団長は実に嬉しそうにシャーミアンの肩に手を置くと、レンを振り返った。
「見習い騎士レン。白天馬騎士団は貴君をドラゴンの乗り手と認め、竜騎士に任命する。これからも副騎士団長の指導のもと、任務に励むように」
「はい!」
大きく頷くレン。

「オニキス・ドラゴン、ダシール」
続いて団長はダッシュに目を向ける。
「以後、君は騎士団の一員となり、街の治安と正義を守るために働くように。期待しているぞ」
「おう! 任せとけ!」
ダッシュは笑顔で自分の胸を叩いてみせた。

 こうして。
白天馬騎士団初の竜騎士の誕生となったのだがーー。
「……ふ、不安だ」
喜ぶふたりのすぐ横で、シャーミアンだけはこれから苦労を思い浮かべ、顔を歪める。
「団長、竜に乗るには、特別な鞍が必要になるのでは?」
プリアモンドが団長に尋ねた。
「よろいも普段、騎士が身につけるものよりも軽い方がいいだろうな」
リュシアンも提案する。
「レンって騎士にしてはちょっと非力だもんね〜」
エティエンヌが頭の後ろで手を組んで笑った。
「では、そうしたことも含めて、すべて任せるぞ」
団長はシャーミアンを見る。
「……はい」
シャーミアンはため息まじりに頷くしかなかった。