WEB限定 書き下ろし小説

はたらく喜び?

2

この日。
 たまたまこの「三本足のアライグマ」亭で、ミノタウルスの女の子ミノンと、その友だちで髪が蛇になっているメデューサがおしゃべりをしていた。

「はあ~」
「どうしたの?」
 深くため息をつくミノンに、メデューサがたずねる。

「愛しいショーン君とのデート代が足りないんです」
 ミノンはまたひとつため息を重ね、レモンのタルトにかぶりついた。

「ショーン君、デートしてくれることになったんですか?」
 メデューサは驚く。
 ミノンがショーンに恋をしているのは知っていたけれど、ミノンがいくら誘ってもショーンは逃げてばかり。
 デーとしてくれるようになったとは初耳だった。

「お金が貯まってから誘うんですよ」
 ミノンは答える。やっぱり、ショーンは逃げ回っているようだ。

「……手っとり早く、お金がほしいです」
 ミノンは、お金を貸して欲しそうな目をメデューサに向けた。

「私も今月、きびしくって」
 メデューサは顔を伏せる。
 頭の蛇たちも、いっしょに視線をそらす。
 と、その時。

「あんたら! ほんとうに次、ヘマしたらクビだからね、クビ!」
 カウンターの方から、セルマが怒鳴る声が聞こえてきた。
 怒られているのは、いつもの3人。
 アーリンとフィリイ、そしてフロイラインである。

「あの連中が働けるなら――」
「私たちだって」
 ミノンとメデューサは顔を見合わせた。