WEB限定 書き下ろし小説

われらサクノス家三兄弟!!

3

「あの、私は何をすれば?」
 ヴィクトルが自分の仕事に戻っていくと、シャーミアンは三人にたずねた。
「従者は言われなくても、自分で仕事を見つけてくるものだ」
 リュシアンはそっけない。
「逆に聞くけど、白天馬騎士団の仕事ってなんだと思ってるの、シャーミアンちゃんは?」
 エティエンヌがシャーミアンの手を取った。
「シャーミアンちゃんって呼ぶな! 私の方が年上だ!」
 その手を振りほどくシャーミアン。
「でも、君、従者。僕たち、騎士」
「うぐぐぐっ!」
 従者は騎士に従うもの。
 シャーミアンはギリギリと奥歯をかみしめる。
「さっきの質問に答えてよ」
 エティエンヌは急かす。
「……せ、戦争があれば戦場で戦うことだが……王族の警護、とかだろう……と思う」
 ちょっと考え込んでからシャーミアンは答えるが、自信はない。
「はずれ~。それは~、もっと立派な騎士団のお仕事」
 と、エティエンヌ。
「うちの騎士団に回ってくるのは、街の見回りの仕事ぐらいだな」
 プリアモンドがうなずく。
「あとは、もうず~っと訓練だね~。他にやることないし~」
 頭の後ろで手を組んで、エティエンヌは笑う。
「他にやることがない? 白天馬騎士団は、歴史ある、誇り高き騎士団ではないのか!?」
 がく然とするシャーミアン。
「それは、遠いとお~い昔のお話」
 エティエンヌは、チッチと指を振った。
「今では、身分の高い貴族の子弟はみな、他の騎士団に入る」
 吐き捨てるように言ったのはリュシアンだった。
「王国を支配しているデュリエ大公と手を結び、民を力で押さえつけている騎士団にな」
「うちの騎士団は人気ないんだよね~、貧しい人たちに嫌がらせする不良貴族を取り締まったりするから。ここ数年、入団希望者は減る一方でさあ」
「まさか……私が試験に受かったのは……人手不足のせい?」
 シャーミアンは、目の前が真っ暗になったような気がした。
「当然、そうだろう?」
「だったりして?」
 顔を見合わせる、リュシアンとエティエンヌ。
「……では、普通ならまた落ちていたということ……か?」
 あんなに頑張ったのに。
 私の力なんて、そんなものなのか……。
 全身の力が抜ける。
 あまりにも自分が情けなく、ひとりだったら泣き出しているところだ。
「さすがにそれはないと、思うよ」
 プリアモンドはシャーミアンをなぐさめるように声をかけると、馬の体をていねいにふいて、鞍を乗せた。
「おい、リュシアン、エティエンヌ。話している間に、そろそろ南街区の見回りに行く時間だぞ」
「お前ひとりでいいだろう? ゾロゾロくっついていくのは性に合わん」
 とたんにリュシアンは竪琴を手にし、磨き始める。
「僕も確か、何か用があったような気が~」
 エティエンヌも目をそらした。
「……貴様ら、少しは兄の手助けをしようとは思わないのか?」
「思わん」
「だよね~。あっ、そうだ!」
 エティエンヌは何か思いついたように、シャーミアンの腕を握った。
「せっかくだから、このシャーミアンちゃんを連れてったら?」
「え?」
 まだ立ち直れないシャーミアンは、ぼんやりとプリアモンドを見る。
「では、ついてきて」
 プリアモンドはひらりと馬にまたがった。
「は、はい」
 理由はどうあれ、とにかく従者になったんだ。
 シャーミアンは自分にそう言い聞かせ、馬を進ませるプリアモンドの後を追った。