WEB限定 書き下ろし小説

われらサクノス家三兄弟!!

9

「プリアモンド?」
 自分に手を差し出した少年を見て、あ然とするシャーミアン。
「……と、待て! だいだい、私はお前から何も教わっていない!」
「よしよし、元気はあるようだな」
 プリアモンドはシャーミアンの頭をなでる。
「怪我は?」
「た、大したことはない。……だ~っ! 頭なでるのはやめてくれ!」
「さてと」
 プリアモンドはシャーミアンを立たせると、貴族の若者たちを振り返った。
「うちの従者をずいぶんと可愛がってくれたようだな?」
「だ、誰だ、このガキは!?」
 頭にできたたんこぶを押さえながら、グロットの息子はどなる。
「……坊ちゃん、まずいですよ。こいつ、あのプリアモンドです」
 仲間の一人がささやく。
「サ、サクノス家のプリアモンド!」
「じゃあ、こいつは白天馬騎士団の!?」
 貴族の若者たちはたじろいだ。
「ひるむな! たかが二人だ! こっちは何人いると思う!」
 グロットの息子は、仲間たちを前に押し出し、自分はその背中に隠れる。
「ふ。雑魚は何匹集まろうと、雑魚だ」
 ビュン!
 矢が飛んできて、グロットの息子の顔をかすめた。
 右の眉毛が、ハラリと落ちる。
「ひいいいいいいいっ!」
「お前らなど、俺が手を貸すまでもないが」
 黒髪の少年が現れ、シャーミアンたちの横に立った。
「女性に怪我をさせるのは許せん」
「リュシアンだ!」
 貴族の不良たちは真っ青になる。
 さらに。
「面白そうな場面だよね? こういう時は、僕も呼んでくれなきゃ」
 巻き毛の少年が屋根からひょいと飛び下り、貴族の若者たちの背後に回り込んだ。
「エティエンヌまで!」
「うろたえるんじゃない! ただのガキどもだ! やれ! あいつらを倒したやつには金貨百枚くれてやる!」
 グロットの息子は命じた。
「百枚? ずいぶんと安く見られたものだ」
 と、肩をすくめるプリアモンドに、金に目がくらんだ若者のひとりが馬に乗って突進する。
 だが、プリアモンドは鉄槌を構えながら、相手の頭を飛び越えた。
「あの鉄鎚を持ったまま!?」
 目を丸くするシャーミアン。
 ビュン!
 プリアモンドは振り返りざまに鉄鎚を投げ、馬上の貴族に命中させる。
「がんばれ~!」
 と、応援しているだけに見えるのはエティエンヌ。
「……あ、あいつ」
 シャーミアンは気がついた。
 エティエンヌは、他の人間に気づかれないように死角に回り込みながら、貴族たちを背後からの一撃で気絶させているのだ。
「見た目よりも……強い」
 シャーミアンがそうつぶやいた次の瞬間。
「お前!」
 グロットの息子がシャーミアンに飛びかかり、腕をねじ上げた。
「近づくな! 近づけば、こいつの命はないぞ!」
 グロットの息子は、シャーミアンを盾にする。
 だが。
「そういうやり方は許せんといったはずだ」
 ビュッ!
 今度の矢はシャーミアンを避けるように曲がって飛ぶと、グロットの息子の左眉をそり落とした。
「う、うそだ~っ!」
 グロットの息子は白目をむいてひっくり返る。
「完全に……私のかげになっていたはずなのに?」
 シャーミアンは息を呑んだ。
「俺に射抜けぬ的はない」
 続けて矢をつがえるリュシアン。
「……次は誰の眉をそぎ取るかな?」
「ご、ごめんなさい! 降参します!」
 貴族の若者たちは全員、両手を上げた。

「お前ら! ち、父上に言いつけるぞ! 街を火の海にするぞ!」
 しばらくして気がついたグロットの息子は、自分が縛られているのに気がついてわめいた。
「やってみろ」
 と、リュシアン。
「今後、南街区の人間に何かしてみろ。俺がお前をきっと見つけ出す」
「み、見つけ出してどうする!?」
「聞きたいか? 聞かなければよかったと思うぞ?」
 リュシアンは凄みのある笑顔を見せた。
「じっくりと、生まれてきたことを後悔させてやる」
 決して、大げさなことを語っている表情ではない。
「ひいいいいいいいいいっ!」
 グロットの息子はまた気絶した。