WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第二回

 少しして。
 ガサガサガサ!
 ひとりになったリュシアンは、誰かがそばにいる気配、いや、騒音を感じた。
「誰だ!?」
「ふふふ、それは私ですー」
 まるでゴキブリのように、フィリイが茂みの中から現れた。大切りのミンスのパイを口にくわえ、ローストしたチキンを右手に、リンゴジュースのグラスを左手に持って。
「リュシアンさんがキスしようとしたら、邪魔してやろうと隠れて観察してましたー」
「貴様、その格好でうろついていたのか?」
 リュシアンは、フィリイの頭のてっぺんから爪先までを、呆れた顔で見渡した。
「はいー、もぐもく、もう、もぐもぐ、お腹いっぱいですー。あとは、もぐもぐ、ケーキ三十個ぐらいしか、もぐもぐ、入りませんー……っんぐ!」
 と言いながら、フィリイはパイを呑み込む。
「……連れだと思われたくない」
 リュシアンは右手を額に当てた。
「もー手遅れです」
 フィリイはニーッと笑う。
「なんだと?」
「リュシアンさんの恋人だって、みんなに言いふらしましたー」
「み……んな……?」
「そりゃあもう、会う人会う人に、力強くベラベラと! リュシアンさん、これはもう既成事実といういうことで、私にプロポーズするしか……はううっ!」
 むぎゅーう!
 フィリイの頬っぺたが、幅が二倍に広がるほど引っ張られた。
「……このヤブ蚊、出会った瞬間に銀の矢を撃ち込んでおくべきだったな」
 と、その時。