WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第二回

「いいんですかー」
〝三本足のアライグマ〟亭に向かう馬車の上で、フィリイは尋ねていた。
「あんなにきれいな人を振っちゃうなんて?」
「……俺とあの娘は違いすぎる。って、お前、盗み聞きしていたな?」
 手綱を握るリュシアンの瞳に、危険な色が宿った。
「もしかして、私がいるからですかー?」
 話を全然聞いていないフィリイは、はっとした顔で自分を指さす。
「なわけがあるか!」
「まあまあ、照れなくていいんですよー」
 フィリイはリュシアンの腕にしがみつく。
「三つ数えるうちに手を離せ。さもないと蹴落とす。一、二……」
「へへへ、優しいリュシアンさんは、女の子にそんなことしませんよー」
 どがっ!
 三つ数える前に、フィリイは道に落ちていた。
(おしまい)

…リュシアンの切ない物語、いかがでしたか?
次回、ラストを飾るのはもちろんエティエンヌです!