WEB限定 書き下ろし小説

守りたいもの ~レンの気持ち~

8

程なく、ショーンに手を引っ張られたミノンがやってきた。
「レン君、どうしたの……って、あれなに!?」
お化けエイを見たミノンは、もともと丸い目をさらに丸くした。
「ミノン、僕をあいつの背中の上に投げられるか?」
「できるけど……う~ん」
ミノンは考え込む。投げた後に無事かどうか、保証できないのだ。
「頼む!」
レンはミノンの肩をつかんだ。
「……そっか」
ミノンはお化けエイの上にトリシアがいることに気がついた。
「これは愛のためなんですね! 怪物に捕らわれたお姫様を救う王子様がレン君! ぜひ、協力させてください!」
ミノンは瞳をきらきら輝かせると、レンの襟首をつかんでポ~ンと放り投げた。
「どわっ!」
心の準備も何もあったものではない。
レンの体は宙を舞い、お化けエイの背中に落ちる。
「……し、死ぬかと思った」
レンは何とか立ち上がると、よろけながらも何とか沈没船に近づいた。
「炎よ、吹き飛ばせ! クリオン・ティール!!」
炎の矢が、トリシアの裾を挟んでいたマストを吹き飛ばす。
「この子を止めて! このままだと陸に上がっちゃう!」
トリシアは、差し出されたレンの腕をつかんだ。
「あいつ、陸に上がって平気なのか!?」
と、レン。
「そんなことないよ! でも、恐がってて自分で何をしているか分からないんだよ!」
「顔の前に回り込もう!!」
レンはトリシアの手を握ったまま、お化けエイの頭の方に向かって走り出した。
「聞いて!」
頭の一番先まで来ると、トリシアは叫んだ。
「お願い!」
暴れるお化けエイのヒレが水面を叩き、大きな波を起こした。その波をかぶって、二人は川に落ちそうになる。
「ここからじゃダメみたい!」
エイの顔は下側についているので背中の方からでは声が届かないないようだ。
「こうなったら!」
レンはトリシアを抱え、川に向かって飛び込んだ。
かなりの高さなので、トリシアが怪我をしないよう、レンはその頭をギュッと抱きしめる。
まるで地面にたたきつけられたような衝撃。
お化けエイの鼻先で、白い水柱が上がった。
「この距離なら! トリシア、話しかけるんだ!」
レンは右手で水をかきながら、左腕でトリシアの体を支えた。
「ねえ! 私を見て! こっち! 恐がらなくていいの! 誰もあなたを傷つけないから!」
トリシアの目と、お化けエイの目が合う。
「聞いて!」
トリシアはもう一度くり返した。
すると。
お化けエイは大人しくなり、トリシアを見つめ返した。