WEB限定 書き下ろし小説

守りたいもの ~レンの気持ち~

7

「ごめん! 僕のせいなんだ!」
 トリシアと三兄弟がやってくると、レンが真っ先に白状した。
「いや、レン殿だけのせいではない。この僕、ショーン・サクノス・ド・レイバーンにも責任はある」
 ショーンがレンをかばう。
「いやあ、これは正直な話、僕ら三人全員が……」
「って、貴様がいうな!」
 お化けエイを目覚めさせた張本人、セドリックに向かってショーンが怒鳴る。
「話は後から聞くから!」
 トリシアは三人をさえぎった。
お化けエイが泳ぐだけで船が沈み、川岸の建物は波で水浸しになっている。
「ねえ!」
 トリシアは川岸に立ってお化けエイに呼びかけるが、お化けエイには聞こえないようだ。
「声が届かない。遠すぎるんだ」
 プリアモンドが頭を振った。
「ぼ、僕は十分近いと思うなあ」
 セドリックはトリシアにしがみついてガチガチと歯を鳴らす。
「もっと近づくしかないわね!」
 トリシアは桟橋に向かうと、お化けエイの背中に飛び移った。まるで丘のような背中の上を、沈没船の方に向かって走るトリシア。顔の近くに行って、呼びかけようというのだ。
 しかし。
 沈没船にたどり着いたところで、突然、お化けエイが体を揺らした。沈没船のマストが大きく傾き、トリシアの白衣の裾が、マストとお化けエイの体の間にはさまってしまう。
「動けない!」
 トリシアはなんとか抜け出そうとするが、裾は簡単には外れない。
「……仕方あるまい」
 これを見たリュシアンが弓を構え、狙いをつけて矢を放った。
 しかし。
 キンッ!
 矢は音を立て、お化けエイの背中に弾かれてしまった。
「き、効かないのか?」
 息を飲むシャーミアン。
「皮が厚いんだよ」
 エティエンヌが首を振った。
 頼みの綱の騎士団さえ、今出来ることはまわりの人たちを逃がすことだけ。お化けエイはトリシアを乗せたまま暴れ回る。
「僕のせいだ……僕がなんとかしないと」
 レンは唇をかみ、必死で考える。
 そして。
「ショーン、ミノンって今どこにいる!?」
 ショーンを振り返り、レンはたずねました。
「僕が知るかああ!」
真っ青になるショーン。
 ミノンはミノタウルスの娘で、ショーンに愛されていると大いなる勘違いをしている夢見る乙女。
 怪力のミノンに抱きつかれるたび、ショーンはトリシアの診療所に入院する羽目になっているのだ。
「……吐け」
 レンはショーンの鼻をつまんだ。
「さ、『三本足のアライグマ』亭ではないかと……」
 ショーンはあっさり白状する。
「今すぐ呼んでくるんだ!」
「よ、よく分からんが、分かった!」
 ショーンは南街区を目指し、鈍足は鈍足なりに走り出した。