WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第二回

男たちがやってきたのは、東街区のはずれ。
 倉庫街に近い、小さな商店の裏だった。
(ここって、確か……)
 エティエンヌの頭の中には、王都のほとんどの住人の情報が入っている。
 この家は、老人と孫の二人住まい。
 老人は香油の小売りをしている商人だが、強盗団に押し入られるほどには裕福でない。
 もし狙うとすれば……。
「いいか、この時間はじいさんと孫娘だけのはずだ。逆らうようなら、二人とも痛めつけてかまわねえ」
 親分らしい男の声が聞こえる。
「……いや、痛めつけたらダメでしょ?」
 エティエンヌはつぶやき、そっと木の陰から顔を出して男たちの方を見た。
 命令しているのは、背の高い、頬のこけた目つきの悪い男。
 どうやら、彼が強盗団の親玉のようである。
 子分は三人。
 むさくるしいヒゲづらの男。
 そよ風でも吹き飛びそうなほど、小柄でやせた男。
 それに、歩くだけでも息が切れそうな太った男だ。
(ここは慎重に行こうかな? 押し入る瞬間の不意をつけば、僕ひとりでも楽勝だもん)
 エティエンヌは静かに、親玉が扉を開けるのを待つ。
 しかし。
「いいか?」
 親玉が三人を見渡し、裏口の扉に鍵開けを使おうとしたその時。
 カチャ。
 小さな音がして、扉が内側から開いた。
「あなたたち?」
 家から出てきて、四人組を大きく開いた目で見つめたのは、十四、五歳の少女だった。
 裏の井戸に、水をくみにでも出てきたところで、運悪く鉢合わせになったのだろう。
「!」
 親玉はとっさに少女の口をふさぎ、壁に押しつけた。
「静かにしろ!」
 少女はおびえ、なみだ目になってうなずく。
「いいか、金のあるところまで案内しろ」
 親玉は少女に命じ、その腕をつかんだまま家に入ってゆく。
(失敗した。僕がもう少し早くあいつらを捕まえていれば……)
 エティエンヌは、こぶしを強く握りしめた。
 慎重になりすぎたせいで、少女を人質に取られてしまったのだ。