WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第二回

 侵入した家は、裕福な商人が多い東街区にしては、小さくつつましやかだった。
「こんな家にお金があるようには思えないけど?」
 エティエンヌはみんなについていきながら、ヒゲづらのイーライにたずねる。
「そう見えないようにして、貯め込んでるんだとよ。親分が言ってたぜ」
 イーライは答え、怒りをあらわにした。
「貧しい連中から巻き上げた金だそうだ。許せねえぜ!」
「……君、それでこの仕事を?」
「ああ。俺たちは悪いやつらから金を取り上げる、正義の盗賊さまだ!」
 イーライは胸を張る。
「だといいね」
 エティエンヌは小さくつぶやくと、先頭を歩く親玉と少女の背中をじっと見つめた。

 少女はエティエンヌたちを奥の部屋に案内した。
 その部屋では老人がひとりで寝ていて、目を覚まして騒ごうとしたが、親玉が殴りつけて黙らせる。
「騒ぐとこのガキが無事じゃ済まねえぞ!」
 親分は少女の腕を強くねじ上げると、ヒゲづらにベッドの下を探させた。
「へへへ、これかあー?」
 ヒゲづらはベッドの下から、革の袋を引っ張り出してくる。
「やめてくれ、その金は! その金だけは!」
 老人は親玉にすがりついた。
「頼む、返してくれ!」
「面倒だ」
 ナイフを抜く親玉。
 と、その時。
「くっ!」
 老人のみぞおちに、エティエンヌがこぶしを当てて気絶させた。
「……ごめんね」
 このまま騒ぎになれば、老人の身が危険だと思ったからである。
 だが。
「……最低」
 少女はエティエンヌを見つめ、吐き捨てるように言った。
「あはは、嫌われちゃった」
 エティエンヌは力なく笑うしかない。
「目的の金は手に入った。あとは……」
 親玉は、冷え切った視線を老人と少女に向けた。
「待ってよ! 殺すのはなし! ね、やめよう!」
 止めに入るエティエンヌ。
「顔を見られた」
「分かりっこないでしょ! こんなに暗いんだし!」
「騒がれると面倒だ」
「騒がないよ! 僕らのこと、怖がってるもの! ねえ?」
 エティエンヌが聞くと、少女は少しためらってからうなずいた。
「お、親分、俺からも頼みます!」
「そうですぜ!」
「そ、そうした方が、いいんだな」
 イーライや他の子分も頭を下げる。
「……縛りあげておけ」
 親玉はイーライから袋をもぎ取り、中の金貨を数えると出口へと向かった。