WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第二回

と、その時。
「……僕は君を哀れむよ。お金しか信用できず、仲間さえ裏切る君を」
 エティエンヌが、すっと親玉の前に出た。
「ほざけ! 真っ先にお前を片づけてやる!」
 親玉は素早くナイフを突き出した。
「無理さ」
 エティエンヌは右足だけを動かして、すれすれのところでナイフをかわすと、親玉の手首をつかむ。
「!」
 一瞬後、親玉の体は宙を舞って、地面に叩きつけられる。
 続いて、こぶしがみぞおちに打ち込まれ、親玉は気を失った。
「……誰も信用しない人間は、誰からも信用されないよ。牢の中で生き方、考え直した方がいいよ」
 エティエンヌはナイフを奪い、親玉を見下ろした。
「す、すげえ!」
「見かけによらず……強ええ」
「かっこいいんだな」
 イーライたちは壁にへばりついたまま、目を白黒させた。
「そっかなあ?」
 ふだん、自分で気にしたことはないが、エティエンヌは騎士団入団試験の最年少合格者。
 その強さは折り紙つきだ。
「それにしても、おめえ、どうしてあの家のことを知ってたんだ?」
 エティエンヌが親玉をしばり上げるのを見ながら、イーライはポリポリとヒゲをかいた。
「僕たちふだん、見回りをしながらなるべく街の人たちと触れ合うようにしてるから、たいていの家のことは自然と覚えちゃうんだよ。実際に言ったことのない家でも、うわさ話とかを耳にするしね」
「お、おめえ! ほんとは騎士団員かあああああああっ!」
 あっさりエティエンヌに告げられたイーライの顔から、さーっと血の気が失せた。
「うん」
 凍りつくイーライの肩に、エティエンヌは手を置く。
「僕、エティエンヌっていうんだ」
「お……おめえが!」
 イーライは急に空気が薄くなったみたいに口をパクパクさせた。
「サクノス家三兄弟のひとり!」
「あ、あのエティエンヌなのかなっ!」
 他の二人の子分も、抱き合って震え上がる。
「うん」
 エティエンヌはうなずいた。
「す、す、すみませーん!」
「許してちょーだい!」
「た、たいへんなことをしてしまったんだな」
 三人は水たまりが足元にできそうなほど冷や汗をかきながら地面にはいつくばる。