WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第二回

(こうなったら!)
「はーい!」
 エティエンヌは木陰から飛び出し、笑顔で親玉たちに手を振った。
「誰だ、お前!」
 振り返った親玉が、少女の腕をねじ上げたままナイフを抜いて構える。
「いやー、通りがかったら、たまたま耳に入っちゃって」
 エティエンヌは頭をかいた。
「……始末しろ!」
 親玉がヒゲづらに命じる。
「し、始末!?」
 ヒゲづらは、自分の耳を疑うような顔をした。
 他の二人の子分も、この場で気絶しそうなほどガタガタと震える。
「早くしろ!」
「いやー、そういうこわいことは……」
 親玉にせかされたヒゲづらはためらい、他の子分に助けを求める目を向けた。
「そ、それはちょっと……」
「し、始末するのは痛そうなんだな」
 二人は顔を見合わせた。
「……なら、俺がやる」
 親玉は、ナイフの先をエティエンヌに向ける。
「ねえ、もっといい考えがあるよ。僕も仲間にしてくれない?」
 両手を上げながら、エティエンヌは親玉に提案した。
「…………」
 親玉につかまれたままの少女は、無言でエティエンヌに軽蔑の目を向ける。
「おまっ! 俺たちの仲間になりたいのかよ?」
 ヒゲづらが、あきれたような声でたずねた。
「だって、面白そうでしょ?」
 エティエンヌはほほ笑んでみせる。
 だが。
「口を封じるぞ」
 親玉は耳を貸そうとはせず、刃をエティエンヌの胸に当てる。
「ま、待ってくだせえよ! 今騒ぎを起こすと、このあとの計画がおじゃんですぜ?」
 ヒゲづらが、親玉とエティエンヌの間に割って入った。
「……そうだな」
 少し考え、親玉はナイフを納める。
「分け前はお前の分から出せ」
「えええー」
 ヒゲづらは、早くも後悔している様子だ。
「邪魔だけはするなよ」
 親玉はエティエンヌに背を向けると、少女の案内で家の奥へと進むが、警戒は解いていない。
 様子は見るが、信頼はしないといった態度だ。
「……ありがと、かばってくれて」
 エティエンヌはヒゲづらに声をかける。
「優しいんだね」
「ざっけんな! 俺は騒ぎになるのが嫌だっただけだ! いいか、この俺、イーライさまの言うとおりに動くんだぞ!」
 名乗ったヒゲづらは腕組みをして、プイと横を向いた。