WEB限定 書き下ろし小説

激突!魔法運動会!

2

 少しして。
「こ、これは……」
 城のまわりを一周して戻ってきたレンは、両ひざに手を置き、ゼイゼイ言いながらあたりを見渡した。
「も、ダメ」
「……言葉も……ない……」
「な、なぜ王女である私がこんなことを?」
 座り込んでいるのは、ベルやアーエス、キャットを始めとする女の子たち。
「い、生きてるか?」
「正直、分からない」
「……かろうじて」
 男の子たちも全員、芝生の上にひっくり返り、ショーンに至っては白目をむいている。
 平気な様子で立っているのは、最初にゴールしたアンリだけだ。
「こ、これはまずいな」
 まさか、これほどとは思っていなかったのか、アンリの顔からさっきまでの笑みは消えていた。

         *         *         *

 翌日。
「という訳で、今日は運動会だ」
 アンリは城の中庭で、生徒たちを前に宣言した。
「どういう訳よ!」
 毛糸の帽子を深々とかぶったベルが抗議する。
「誰かさんが……運動音痴な……おかげで……こっちまで……迷惑」
 着膨れでまん丸になったアーエスは、白い目でショーンを見た。
「服が汚れちゃうよー」
「そういうことは、夏か秋にしてくれれば……」
「そうよねえ、こんなに寒くなってからやらなくても」
「あたし、運動嫌ーい」
 女の子のほとんどから、いきなりの運動会は評判がよくない。
 一方。
「やった!」
「勝つ! 絶対に勝つ!」
「俺たち、ふだん目立たない分、今日こそ目立とうぜ!」
 勉強が苦手な男子たちが、やっと出番が来たというように、円陣を組んで気合いを入れた。
 だが。
 そこに現れたのが、アムレディアとシャーミアン、生きている人形のミラ、それにトリシアだった。
「生徒たちが、親睦を深めることも大切ですね」
 いつもより軽装、男の子のような服を着たアムレディアは、柔軟運動を始める。
「ふふふ、騎士の真の姿、見せてやるとしよう」
 ちょっと怪しい目つきで剣を抜いてみせるのはシャーミアンだ。
「……目立てる気がしなくなった」
 肩を落とす男の子たちが真っ青なのは、どうやら寒さのせいだけではなさそうである。
「……あの、私はどうして?」
 キコッと首を傾げたのは、生きている人形のミラ。
「君が友だちを作る、いい機会じゃないかと思うんだ」
 と、アンリは身体をかがめ、視線の高さをミラと合わせて微笑む。
「あ、ありがとうございます!」
 ミラは嬉しそうにアンリにお辞儀した。
 一方。
「あ、あのー、アンリ先生? どうして卒業した私まで?」
 トリシアは自分を指さして、アンリに尋ねていた。
 トリシアのところに手紙が届いたのは、今朝のこと。
 読んでみるとアンリからの呼び出しなので、喜んで星見の塔に来てみたら、いつの間にか参加する羽目になっていたのだ。
「君、これ持ち上げられる?」
 レンが足下に置いてあった小麦入りの麻袋を指さした。
「そんなのかんた……ん!」
 トリシアは袋に手をかけたが、袋は地面から離れようとしない。
「……無理」
 トリシアはあっさりあきらめた。
「つまりそういうこと。君も体がなまってるんだよ」
 アンリが微笑み、トリシアの肩に手を置く。
「君には先輩として、みんなの見本になって欲しい」
「うう」
 アンリにそうまで言われると、トリシアも逃げられない。