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激突!魔法運動会!

6

「三回戦も代表戦。今度は八対八の騎馬戦だ」
 アンリはみんなにそう告げると、手を振って合図した。
 すると。
「頼まれた馬、届けに来たよー」
 現れたのは、鞍付きの馬十六頭を連れたエティエンヌだった。
「アンリ、これでいいんだよね?」
 赤いモコモコのコートを着たエティエンヌは、つながれた馬をアンリに渡す。
「ありがとう。夕方には返すよ」
 アンリは頷き、馬をまとめていた綱をほどく。
「大変だねえ、この寒いのに運動会。とにかく、みんながんばってー。……負けると思うけど、シャーミアンちゃんも」
「一言多い!」
 シャーミアンがにらむが、エティエンヌはニコニコしながら手を振って帰っていった。
「騎馬戦って……」
 アンリが引っ張ってきた馬を見て、トリシアは顔を引きつらせる。
「よもやと思っていたが、本物の馬を使うのだな、あははは……」
 ショーンも力なく笑う。
「今度の騎馬戦に参加するのは、各チーム八名。本当は全員でやりたかったけど、予算の関係で馬の数が少なかったからね。武器は無し。相手を引っ張って馬から落とす。馬から落ちたら、その時点で失格。最後に残っていた人のチームが勝ちだ」
「これじゃ運動会って言うより、騎士の訓練だよ」
 アンリの説明を聞いて、つぶやくレン。
「今度はトリシアも参加していいよ」
 シャーミアンとアムレディア以外の全員がうんざりした顔をする中、アンリは笑顔をトリシアに向ける。
「ぜ、ぜ、ぜ、ぜひとも参加を拒否したいんですけど!」
 トリシアは首を激しく横に振るが、アムレディアがその腕をつかんだ。
「では、こちらのチームは男の子が全員で六人。あとは私とトリシアということで」
「今のわたしの言葉、聞いてました!?」
 トリシアは涙目で訴える。
「大丈夫よ、あなたはユニコーンにだって乗れるのだから」
 アムレディアはウインクした。
 一方。
「こちらは私とレン、ショーン、ベル、エマ、あとはお前とお前と……お前でいい」
 シャーミアンは、適当に男の子三人を指さした。
「僕ら」
「名前覚えてもらって」
「ないんだな」
 選ばれた男の子たちはため息をつく。
「じゃあ、馬に乗って」
 アンリはみんなに馬の手綱を持たせた。
 アムレディア・チームとシャーミアン・チームは、距離を取って向かい合う。
「騎士の指揮ぶりをお目にかけますよ、姫」
 シャーミアンは大胆不敵に白い歯を見せた。
「実戦の経験は、私の方が積んでいるわ」
 アムレディアも余裕の表情だ。
「うう、とにかく逃げてね」
 トリシアは必死になって馬に話しかけるが、馬はもともと騎士団の馬。
(俺は勝ーつ!)
 ……戦う気満々である。
「では、用意……」
 真ん中に立ったアンリが左右を見渡し、右手を上げた。
「始め!」
 手が振りおろされた次の瞬間。
「降参です!」
 レンとショーンを除く男の子全員が、馬から飛び降りた。
「な、なんですのっ!?」
 見ていたキャットは呆気に取られる。
「これは……予想……しなかった……展開」
 アーエスも同意見のようだ。 
「なはははははっ! 僕ら、命が大切だもんね!」
「王女やシャーミアンと戦うくらいなら、ドラゴンの口に自分で飛び込んだ方が、まだ安全!」
 男の子たちは肩を組んで開き直る。
「……ある意味、賢明な判断だな」
 と、つぶやいたショーンも早く馬から飛び降りたいところだが、動いている馬から下りること自体がショーンには至難の業だった。
「あらあら」
 一瞬で味方がトリシアだけになったアムレディアは苦笑する。
「こっちも三人が棄権とは! な、情けない!」
 シャーミアンも額に手を当てた。