WEB限定 書き下ろし小説

激突!魔法運動会!

4

「それじゃあ、チームが決まったところで、競技の説明に入るよ」
 アンリはみんなを見渡した。
「種目は綱引き、羊集め、騎馬戦、障害物競走の四つだ」
「羊集めとやら以外はまあ、常識的な種目ではあるな?」
 ショーンがレンに囁く。
「まずは綱引きなのね? 残りの種目の説明は後でいいわ! すぐに始めましょう!」
 やる気満々のアムレディアが、さっさと置いてあった綱を握った。
「魔法の力を借りるのはなし」
「……う」
 こっそり自分のチームに魔法を使おうとしていたトリシアは、アンリに釘を刺され、魔旋律を途中で中断する。
「では……始め!」
 全員が綱を握ると、アンリは手を振って合図した。
 両チームの真ん中に引かれた線を、先に越えたチームが負けである。
「引けーっ! 騎士の名誉にかけて!」
 先頭のシャーミアンが、踏ん張りながら大声で怒鳴った。
「……僕たち、騎士じゃないんだけどなあ」
 ため息をつくレンも、仕方なく綱を引く。
 綱の一番端っこを握るのはショーンだが……。
「うぐぐぐぐっ! 手が痛い、手が痛い、手が痛い、手が痛い、手が痛い、手が痛い、手が痛いー! こんな野蛮な競技は嫌だあああああっ!」
 もちろん、ほとんど戦力にはなっていなかった。
 アムレディア・チームの先頭はトリシア。
「みんながんばって!」
 一番後ろがアムレディアで、アムは腰に綱を巻きつけ、みんなが綱を引くタイミングを合わせられるように号令をかけている。
「うぬぬぬ! ひ、引けーっ! って違う、今だ! だから今!」
 シャーミアン・チームは、なかなか全員の息が合わない。
 主な原因は、ベルとショーン。
 ベルはシャーミアンの方などまったく見ていない。うっとりと見ているのは、レンの背中だ。
 ショーンも、他のみんなが綱を引くのを見てから引くので、どうしてもテンポがずれる。
 シャーミアンたちは、ジリジリと前に引き寄せられ……。
「勝者、アムレディア・チーム!」
 シャーミアンの足が線を踏み越えた瞬間、アンリは宣言した。
「やった!」
「やりましたわ!」
 手をパチンと打ち合わせて喜ぶトリシアとキャット。
 しかし。
「待って!」
 と、ベルが抗議の声を上げ、アーエスを指さした。
「そこの着ぶくれっ子! コートを脱いでみなさい!」
「……なぜに?」
 アーエスは口笛を吹いてそっぽを向く。
「見せなさいって!」
 ベルが無理矢理コートを脱がすと、コートはドサッと音を立てて地面に落ちた。
「ドサッ……って?」
 トリシアがコートを調べてみると、内側のポケットにはこぶしぐらいの大きさの石が、左右合わせて十個以上入っている。
「こんなの着て、よく歩けたよね?」
 トリシアは半分あきれ、半分感心する。
「見て! この子、ポケットに山ほど石を入れて体重を増やしてたのよ! これって反則でしょ、先生!?」
 ベルはアンリに詰め寄った。
「そ、そうだね」
 アンリは頷く。
「ベル、よく見抜いたな」
 感心するショーン。
「あの子が今まで、インチキやイカサマをしなかったことがある?」
「……納得した」
「じゃあ、綱引きはシャーミアン・チームの……」
 と、アンリが訂正しようとしたその時。
「お待ちなさい」
 今度はアムレディアが異議を唱えた。
「重石がいけないと言うなら、シャーミアンの鎧も反則ではないかしら?」
「え?」
 シャーミアンはポカンと口を開ける。
「あの鎧、アーエスがコートに入れていた石よりもずっと重いはずよ。それに、こちらには普通の子の半分の体重しかない人形のミラがいるんだし、これくらいの重石をつけないと公平とは言えないでしょう?」
 アムレディアはアーエスに微笑みかけた。
「……ねえ、ダメよ、アーエス。反則はバレないようにやらないと」
「……了解」
 アーエスは力強く頷く。
「し、しかし、私は普段からこの鎧を身につけていて……」
 シャーミアンの抗議の矛先が鈍る。
「は、ん、そ、く」
 アムレディアは嬉しそうに繰り返した。
「い、一国の王女の発言とは思えないんだけど?」
 こめかみを押さえるレン。
「勝負となると、目の色が変わるんだよ。すっごい負けず嫌い」
 アンリはそっとレンに耳打ちし、決定を下した。
「どちらの抗議ももっともなので、判定は変わらず。アムレディア・チームの勝ち!」
「くっ! 次は必ず勝つ!」
 めったに鎧以外の服装をしないシャーミアンだが、猛ダッシュで着替えを取りに、騎士団本部に走っていった。