WEB限定 書き下ろし小説

激突!魔法運動会!

8

「ここまで、両チームとも一勝一敗一引き分け。つまり……」
 最後の競技を前に、アンリはみんなをもう一度見渡した。
「この障害物競走で勝負が決まるのだな!」
 シャーミアンはバチンと両手を打ち合わせ、気合いを入れる。
「そう」
 アンリは頷いて、地面に線を引いた。
「城のまわりを一周して、この線まで戻った選手が優勝。ただし、障害物競走なので、障害物があるよ」
「あのー、先生?」
 トリシアが手を上げて質問し、アンリの後ろを指さした。
「あれは?」
「障害物」
 ガルルルルルッ!
 アンリの後ろでうずくまり、低い声で唸っている障害物たち。
 障害物は、トロルにワイヴァーン、大サソリにサイクロプス。
 世間一般では、怪物と呼ばれている生き物だった。
「踏まれたり噛みつかれたりすると、それなりに痛いので気をつけて」
 実際は、みんな魔法で作り出したもので、実体はなく、踏みつけも噛みもしない。
 だが、アンリが楽しそうに説明すると、みんなは震え上がった。
「アムとシャーミアンも参加するから、ちょっと難易度を上げたんだ」
「体力系女子どもにレベルを合わせないでくれえええええええっ!」
 最初に叫んだのはショーンだが、それは男子全員を代表した声でもあった。
「ちょっとじゃないでしょ、あれは!」
「今日は最低の一日」
 女の子たちも、顔を見合わせる。
「でも、意外とみなさん驚いていませんね」
 ミラがこっそりとアーエスに尋ねた。
「……まあ……トリシアの……やらかす……騒動で……けっこー……慣れてるから……」
 アーエスは答える。
「じゃあ、そろそろスタート位置について」
 アンリはみんなを線のところに並ばせた。
「前もって言っておくけど、この障害物たち、後ろから君たちを追いかけていくようになっているのでそのつもりで」
「わーっ!」
 生徒たちは、アンリの合図を待たずに走り出した。
「走るだけなら!」
 まず先頭に立ったのはレンである。
 だがすぐにアムレディアとシャーミアンが追いついてくる。
 その後ろには、少し離れて男の子の集団。
 ミラを含め、女の子たちがすぐあとに続く。
 もちろん、障害物の怪物たちも、生徒たちの邪魔をするように追いかける。
 そして、トップの三人が城の裏手までところで来たところで。
 ドンッ!
 アムレディアが走りながら、シャーミアンを肩でトロルの方に押しやった。
「くっ! アンリ殿の目の届かぬところでしかけてきたか!?」
 トロルに捕まりそうになるのをなんとかかわしたシャーミアンが、逆にアムレディアを大サソリの方に突き飛ばす。
「相手を妨害するのが反則だとは、アンリは言わなかったわ!」
「ならばこっちも! 王族といえど、容赦しない!」
「……最初からしてないでしょ!」
 ほとんど寄り添うように並んで走る二人。
「あはは……つき合いきれるか!」
 レンは頭を振ると、横に移動して二人から少し距離を取った。