WEB限定 書き下ろし小説

大激突!? トリシアVSフローラ!!

 2

 トリシアと金髪の少女は、きょとんとした顔で見つめ合ったかと思うと、けわしい目で相手をにらむ。
「ど、泥棒?」
「失礼な! そっちこそ、この美しいわたしをさらって身代金を取ろうと狙う、誘拐団の一員でしょう!?」
「ゆ、誘拐団!? 何言ってるのよ、ひとの診療所に突然現れて!?」
「突然現れたのはそっちのほうでしょう!? ……って、あら?」
 金髪の少女はそう言いながら窓の外に目をやると、表情にとまどいの色を浮かべた。
「研究所……じゃない? 大運河は!? わたしの屋敷はどこ!?」 
「フローラ、落ち着いて」
 黒髪の少年は金髪の少女にささやくと、レンのほうを見てたずねる。
「あのさ、ここがどこか、教えてくれないかな?」
「ここはアムリオン王国の首都、アムリオン。その南街区の裏通りにある、小さな診療所だよ」
 と、レン。
「……小さくて悪かったわね」
 トリシアがにらむ。
「やっぱりね。ヴェネツィアじゃないんだ」
 黒髪の少年は、ベルトに下げられた袋から、折りたたまれたヨーロッパの地図を取り出した。
「この国とその周辺の地図があったら、見せて欲しいんだけど?」
「あるよ」
 レンがいつも持ち歩いている地図を机の上に広げると、二人はお互いの地図を比べた。
「……ここは?」
「ローマ。で、こっちがフィレンツェ。この森は?」
「アールヴが住むファヴローウェインの森。でもって、これが大レーヌ川」
 男の子たちが話している間、トリシアとフローラと呼ばれたもうひとりの少女はじーっとにらみ合う。
「やれやれですわね」
 トリシアたちの様子を見て、キャスリーンは肩をすくめる。
「あのー、お菓子、食べませんかー?」
 三角帽子の少女が、袋から取り出したナツメヤシのタルトをキャスリーンに差し出した。
「あら、これは珍しいものを」
 キャスリーンは礼儀正しくおじぎをすると、タルトをつまんで口に運んだ。
「どうですかー?」
「とろけるような甘さですこと」
 どうやら、このタルトはキャスリーンの口に合ったようである。
 しばらくして。
「うん。分かった」
 レンは地図をしまいながらうなずいた。
「何が?」
 道端で出会ったノラネコ同士のようにフローラとにらみ合っていたトリシアが、振り返って眉をひそめる。
「この人たちが、僕らの世界とはまったく別の世界から来たってこと」
「……………………ええええええっ!」