WEB限定 書き下ろし小説

大激突!? トリシアVSフローラ!!

「そういえばー」
 スピカはふと、思い出したようにあたりを見渡す。
「こちらの世界に飛ばされたのは、私たちだけなんでしょうかー? 確かー、あの時研究所にはー……」
「わたしたちの他には、パラケルスス先生にアクアに……」
 と、フローラが指を折って数え始めたその時。
「やあやあ!」
 診療所の扉がバンッと勢いよく開いて、派手な格好をした青年が飛び込んできた。
「……君のお兄さん」
 オーウェンがこめかみを押さえながら言う。
「最愛の妹よ! それにその他二名の諸君! いやあ、なんだかずいぶん久し振りな感じだねえー!」
 フローラの兄、フランチェスコは体に縄を巻かれたまま、金色の長髪を揺らしてキラリと白い歯を見せた。
 その肩には、小さな半透明の妖精のような生き物が、ちょこんと乗っている。
 フローラが錬金術で生み出した、ホムンクルスのアクアである。
「ねえ、こいつ何者か、心当たりある?」
 フランチェスコを縛った縄の端を握って診察室に入ってきたのは、?三本足のアライグマ?亭の女主人、セルマだった。
「突然、うちの店にポンッて現れてさ。トリシアの魔法が失敗して出てきた魔物だって、こいつらが言い出して……」
 セルマが振り返った先には、ベル、ショーン、アーエスの後輩三人組がいた。
「何かとんでもない事件が起こった時って」
「ほとんど……確実に……原因は……」
「トリシアの魔法の失敗に間違いないのだ」
 ベル、アーエス、ショーンは、自信を持って言い切る。
「……あんたたち、先輩を全然信用してないのね?」
 不満を顔いっぱいに表すトリシア。
「あたしたちに信頼されるようなこと、したことあったけ?」
「信頼してたら……命が……いくつあっても……足りない」
「日ごろの自分の行動を省みた方がいいぞ」
 三人からは、もっともな意見が返ってくる。
「ともかく! 再会できてうれしいぞ! この僕に似て、美しく華麗な我が妹よ!」
 フランチェスコはフローラにそう告げると、セルマを振り返ってウインクした。
「……ということで、そこのきれいなお嬢さん、いいかげん、縄、ほどいてくれないかなあ?」
「あたしはね、口のうまい男は信用しないのさ」
 腕組みをしたセルマは首を横にする。
「……ああ、他人の振りしたい」
 ため息をつくフローラ。
 すると。
「……」
 フランチェスコの肩に止まっていたアクアが飛んできて、心配そうにフローラの顔をのぞき込んだ。
「大丈夫よ、あなたのせいじゃないから」
 フローラは笑みを作り、指でアクアの頭を撫でる。
「……へえ、そういう顔もできるんだ」
 ちょっと意外に感じるトリシア。
「ああいうところは、可愛いんだけどね」
 オーウェンはレンにこっそりとささやく。
「……あら?」
 フローラはわざとらしく声を上げると、オーウェンの足を思い切り踏んづけた。
「何か余計なことを言う声が聞こえてきたわ」
「あははは」
 同じような経験が山ほどあるレンが、こわばった笑顔を見せる。
「それにしても」
 フローラはセルマに頼んでフランチェスコの縄を解いてもらうと、改めてあたりを見渡した。
「こんな、わたしの屋敷の物置よりも狭い場所ではなく、もう少し広い場所で今後のことを話さない?」
「……ていうと、あたしの店ってことになる?」
 頭をかくセルマ。
 トリシアたちはいっせいにうなずいた。