WEB限定 書き下ろし小説

大激突!? トリシアVSフローラ!!

「無実なのに疑われて、日ごろの行いって大切よねー」
 肩をすくめたのはベル。
「それを……」
「貴様が言うのか?」
 アーエスとショーンは信じられないといった顔で頭を振った。
 パラケルススの頭の上に座ったアクアも、もっともだというように深くうなずく。
「で、その時空モグラが開けた穴は、どうなったんだい?」
 フランチェスコがクルリと体を一回転させ、ポーズをつけながら教授にたずねた。
「その穴を通れば、僕らはあの栄光の都、なつかしき故郷ヴェネツィアへと帰れるわけだろう?」
「残念だが、穴はそう長い間、開いている訳ではなーい。わしの時代とお前さんたちのヴェネツィアを結ぶ穴、それに、ヴェネツィアとこの時代のアムリオンを結んでいた穴はもう閉じてしまった。わしが何とか、時空モグラを追ってこの世界にやってきた直後にな」
 教授は首を横に振った。
「そんな……」
 ぼう然とするフローラ。
「わたしはもう家族に会えないの?」
「フローラ……」
 家族を失う悲しみを知っているトリシアは、その肩にそっと手を置く。
「あ、あのさ、僕も君の家族なんだけどなー、我が妹よ」
 というフランチェスコの地味な主張は、フローラから完全に無視された。
「その時空モグラを盗んだのは、誰だか分かっているんですか?」
 オーウェンが冷静に教授にたずねる。
「言いづらいのじゃが、我が弟子のひとりであーる」
 もともと不機嫌そうなモルホルト教授の顔が、いっそうきびしいものになる。
「わしの教えがきびしすぎると弱音を吐き、研究所から逃げ出したのであーる! 実になげかわしいのであーる! めずらしい金属を探させに、凶暴なドラゴンの巣に行かせたり、一日五度の食事のたびに、七百八十枚ほど皿を洗わせたり、未完成の発明品に無理矢理乗せて、山の向こうにふっ飛ばしたりしただけだというのに!」
「そ、そりゃあ」
「……逃げたくも」
「なるだろうが!」
 思わず突っ込むベル、アーエス、ショーン。
「その教授の弟子から、王家にこんな脅迫状がさっき届きました」
 アムレディア姫がみんなの前に一通の手紙を差し出した。
 レンガそれを手に取り、読み上げる。

 あっちこっちの時間や空間をこの世界につなげ、
 大混乱させられるのが嫌だったら
 金貨百万枚を用意して、どくろ谷の遺跡まで来い

「どうやら犯人は、この世界で好き勝手をする気のようだね」
 アンリは表情を曇らせた。
「で、どうするんですか? 脅迫状に従うんですか?」
 トリシアはアムレディアにたずねる。
「王家は悪人とは取引しませんよ。ただ、要求に応じる振りはできます」
 と、アムレディア。
「そもそも、非現実的な要求です。百万枚の金貨はそう簡単には運べません」
「人間なら七、八百人。馬車でも数台が必要だね」
 アンリがざっと計算する。
「しかしまあ、この街はこういうお騒がせ野郎にゃ、ことかかないねえ」
 セルマが呆れたように肩をすくめた。
「でも、その時空モグラをそいつから取り戻せば、この人たちももとの世界へ戻れるんでしょ?」
 黒髪をかき上げながらベルが言う。
「もしくは……時空モグラを……私たちが……悪用することも可能」
「不可だ、不可! ていうか、自分で悪用って言うな!」
 怪しく瞳を輝かせるアーエスを止めるショーン。 
「……行きましょ、そのどくろ谷とやらに」
 フローラは立ち上がる。
「うん。時空モグラを取り戻さないとね」
 トリシアも立ち上がり、フローラと顔を見合わせてうなずいた。