WEB限定 書き下ろし小説

大激突!? トリシアVSフローラ!!

「別の空間。別の時間。僕らの住んでいたヴェネツィアとこの世界とじゃ、大西洋の向こうにある新大陸よりもへだたっている」
 黒髪の少年はそう言うと、トリシアに手を差し出した。
「僕はオーウェン。オーウェン・グレンダウワー。ヴェネツィア共和国に住む、錬金術師の見習いだよ」
「へえ。ずいぶん感じがいいのね。そっちのツンとした金髪さんと違って」
 少年の手を握り返すトリシア。
「わたしはフローラ。フローラ・ダンドロ。ヴェネツィアでは知らぬ者のない、歴史ある名家の令嬢です」
 フローラはトリシアのほうをチラリと見て鼻を鳴らすと、レンに手を差し出した。
「そしてー、わたしは魔法使いのスピカちゃんですー」
 三角帽子の少女も手を上げて名乗る。
「おーっほっほっほっほっほ! そして、この私こそ! 何を隠そうアムリオン王国王位継承権第二位! 麗しの君として、国民の敬愛と信頼を集めるキャスリーン姫ですわ!」
 一番目立とうと、高笑いするキャスリーン。
「姫君!?」
 目を丸くしたフローラは、スカートの端をつまんで優雅に一礼した。
「そうとは知らず、失礼をいたしました」
「あらあら、この方、トリシアよりはずっと礼儀正しいですわね」
 キャスリーンは満足そうに目を細める。
「それで」
 オーウェンは小さくせき払いをすると、話を戻した。
「レンと話し合って分かったんだけど、こっちの世界は僕らの世界とはかなり違っている。僕らの世界では科学が発達しているけど、この世界は魔法が支配している」
「あらあらー、ヴェネツィアにも魔法はありますよー」
 と、のんびりした口調で異議を唱えるスピカ。
「魔法使いのわたしが言うんですから、間違いありませーん」
「……あなたのは、魔法ではなくて手品でしょうが?」
 フローラはうんざりといった視線をスピカに向けた。
「とにかく、二つの世界が何かの原因でつながって、僕らが飛ばされてきた。そういうことみたいだ」
「それでー、その原因は何なんでしょうー」
 頬っぺたに指を当て、スピカが首をひねる。
「うーん。トリシアの魔法の失敗か……」
「フローラの事件の失敗か……」
 腕組みをして考え込むレンとオーウェン。
「な訳ないでしょ!」
「そんなはずありません!」
 トリシアとフローラは、同時に床をドンと踏みしめた。