WEB限定 書き下ろし小説

大激突!? トリシアVSフローラ!!

10

「……まったく、二人が時空モグラまで壊すんじゃないかと気が気じゃなかったよ」
 モルホルト教授が時空モグラを点検している間、アンリはトリシアとフローラの二人を前に眉をひそめていた。
「やれやれ、フローラひとりでも手を焼いておるというのに、トリシアといっしょとなると世界を滅ぼしかねんのう」
 パラケルススも困り果てた顔だ。
「別に悪いことしてないのに」
「わたしたち、ちゃんと時空モグラを取り戻したよねえ?」
 不満げなトリシアとフローラは、顔を見合わせた。
「うう、こわい。フローラこわい、トリシアこわい」
 弟子三百二十四号はまだ震えている。
「うむ。ずいぶんと反省したようであーる」
 時空モグラから下りてきたモルホルト教授は弟子を見てうなずいた。
「これって反省?」
「……何か……微妙な……」
「いや、絶対に違うだろ?」
 と、首をひねる後輩三人組。
「でも、もう悪いことをする気にはならないと思いますよ」
 スピカは微笑む。
「あっははははっ! いいことを言うね、スピカちゃん!」
「オーッホッホッホッ! その通りですわ!」
 フランチェスコとキャスリーンは、張り合うように高笑いした。
「さてと、時空モグラは異常無しであーる! わしはこのダメ弟子を連れて、未来に戻るとするのであーる!」
 弟子の首根っこをつかんだモルホルト教授は、再び時空モグラに乗り込む。
「さて、時空に穴を開けるぞ。ヴェネツィアの諸君、ついてくるのであーる!」
「そろそろお別れかい? そう思うと、この繊細な僕はさびしくてしょうがないよ! だからそんな僕をなぐさめて……ぐはっ!」
 ドサクサ紛れにアムレディアにキスしようとして、あごに一撃を食らうフランチェスコ。
「やれやれ、進歩がないのう、この男も」
 あきれるパラケルススの肩の上で、アクアもうなずく。
「ほんとーに、お世話になりましたー」
 スピカがペコリと頭を下げる。
「ねえ、教授! 未来のアムリオンはどうなっているの!?」
 トリシアは、時空モグラを起動させるモルホルト教授に問いかけた。
「未来のヴェネツィアは!?」
 と、フローラも。
「それを言ってしまったら、楽しみがなくなるのであーる!」
 教授はニッと笑った。
「未来が分からないから僕らは最善を求め、努力する」
「そう。そうすれば、どんな悲惨な未来が待ち構えていようと、きっと変えることができる」
 うなずき合うレンとオーウェン。
 時空モグラがガタガタと動き出し、手(のように見える部分)についたドリルが回転を始めた。
 それまで何もなかった空間に小さな黒い穴が開き、それがだんだんと大きく広がってゆく。
「さて、この穴はおぬしたちの世界、ヴェネツィアへとつながったのであーる。案内しよう」
 モルホルト教授は、フローラたちに言った。
「レン、いろいろありがとう」
「こっちこそ」
 レンはオーウェンと握手する。
「あ、あのさ」
 フローラに声をかけるトリシア。
「……また、こっちの世界に遊びに来てもいいからね」
「絶対に嫌!」
 ツンと横を向いたフローラは、時空の穴に向かって歩き出し、少ししてから振り向いて微笑んだ。
「……今度は、あなたがヴェネツィアにいらっしゃい」
 ヴェネツィアから来た面々は、手を振りながら元の世界へと帰っていった。
 時空の穴は次第に小さくなってゆくと、やがて光の粒となって消える。
「……さあ、街に戻ろう」
 レンはトリシアの肩に手を置いた。
「帰ったらきっと、また別の大騒動が待ってるからね」