WEB限定 書き下ろし小説

トリシアと王都観光ツアー

「……うーん」
 もう一度中央広場を抜け、東に向かう道の途中で、レンは腕組みをしました。
「どうしたのよ?」
 ツアーの旗を振るトリシアが、その顔をのぞき込みます。
「ここまで、何にも事件が起きてないし、被害も出ていない。おかしい」
「いや、出てるだろ、この僕に被害! じゅうぶん事件だろ!」
 先頭のショーンが振り返り、自分を指さしました。
「……と……言ってる……割に……この……ツアーに……ついて……来てる……」
 アーエスはノラ犬を相手にするように、手のひらをしっしと振って追い返そうとします。
「当たり前だ! 僕のいないところで陰口をたたかれてはたまらないからな! 絶対に僕はこのツアーから離れないぞ!」
 ショーンは宣言しました。
「陰口なんてたたかないって、ショーンじゃあるまいし」
「陰口なんてたたかないわよ、ショーンじゃないんだから」
 レンとトリシアが声をそろえます。
「今のは陰口じゃないのかああああ!」
「目の前だから」
「そう、目の前だから」
 と、またまたレンとトリシア。
「……お二人さん……息が……ピッタリ……」
 アーエスが指摘します。
「そ、そんなこと!」
「ないない、全然ない!」
 二人は慌てて顔をそむけました。