WEB限定 書き下ろし小説

トリシアと王都観光ツアー

トリシアと行く! アムリオン王都観光一泊二日ツアー!

     始まり

「はーい、みんな、こっちに注目ーっ!」
 小さな旗を手にして立ったトリシアは、『みんな』に微笑みかけました。
『みんな』というのは……。
 そう、こっちの世界からトリシアたちの世界への見学ツアーに参加したみなさんのこと。
 もちろん、あなたもそのひとりですよね?
「ええと、そっちの世界ではツアーコンダクターっていうんだよね? 今回のツアー、案内役をつとめるのは、わたし、トリシアと……」
「ええっと……、レンです」
 レンも頭をかいて、恥ずかしそうに挨拶します。
 ここはアムリオン王国の王都、アムリオンの街の南門前。
 大型の馬車が四台並んでもゆうゆう通れる石造りのこの大きな南門は、街を訪れる人がまず目にする建物のひとつです。
 今日はツアー日和。
 振り返って少し顔を上げると、渡り鳥に囲まれて、青い空をドラゴンが飛んでいる姿が見えます。
「ちょっと、もう少し元気よくできないの? せっかくあっちの世界から来てくれたお客さまの前なんだよ?」
 トリシアは振り返って、旗の先をレンの方に向けました。
「それはそうだけど、君が張り切る時って、ろくなことないじゃないか?」
 目の前でひらひら振られる旗を見て、レンは顔をしかめます。
「……たっく、すぐに調子に乗るんだから」
「今度は大丈夫! ただ街を案内するだけだよ。失敗なんかするはずないでしょ?」
「その自信が不安なんだって。まあ、ここまできたら、もうしょうがないんだけどさ」
 レンは早くもあきらめの表情です。
「さあ、みんな! わたしについてきて!」
 トリシアは旗を振りながら門をくぐりました。