WEB限定 書き下ろし小説

トリシアと王都観光ツアー

「ここが玉座の間」
 しばらくして。
 ようやく地下牢から出してもらったトリシアたちは、ツアーの案内を再開しました。
「ここで貴族院の議会が開かれるんだ」
 本館の最上階で一番広い部屋に、みんなを案内したレンが説明します。
「知ってるわよ。お金持ちや貴族たちが集まって居眠りすることでしょ?」
 と、トリシア。
「は、外れているとは……言えないか。まあ、議員が寝てられるっていうのは平和な証拠ってことで」
 みんなの正面には、一段高くなっているところがあってその上には王座があります。
 両側には長いベンチが置いてあり、ここに貴族たちが座って議会を開いたり、裁判を行ったりするのです。
「国王陛下は身体が弱くてね。今はほとんどの場合、アムレディア王女が陛下の代理を務めている」
 王座を見ながら、レンがちょうどそうみんなに話したところに。
「あら、みんな?」
 法律の本を何冊も抱えたアムレディア王女がやってきました。
「どうしたの、こんなところに?」
「ええっと、実は……」
 レンはまたまたまた、観光ツアーについて説明します。
「まあ。二人とも、感心ね」
 話を聞いたアムレディアは、トリシアとレンを見て微笑みました。
「今日のアムすごい! お姫様みたい!」
 トリシアはアムレディアの服を見て、息を呑みます。
 いつも街中で会う時は、目立たないように地味な格好をしていることの多いアムレディア王女ですが、今日は冠を頭に乗せ、金の縁取りのついた真っ赤なローブをまとい、胸元が大きく開いたドレスを身につけています。
 輝くほどに美しい姿です。
「いや、だから本物のお姫様なんだって」
 と、レン。
「まあでも、確かにキャットと比べると……」
「私だってお姫様ですわよ! 優雅で、華麗で、お淑やかで、聡明な!」
 キャスリーンがドンと床を踏みしめました。
「でも負けてるぞ?」
「負けてるわよねえ。何、この落差」
「負けてる……完璧に……あわれ……」
 後輩三人組が、アムレディアとキャスリーンを交互に見ながらため息をつきます。
「ところで、その本は?」
 トリシアが、アムレディアの抱えている本を指さしました。
「今度大きな裁判があって、その下調べに使う資料よ。いくつか問題があって、昔の記録に目を通しているところなの」
「……キャットも見習って勉強すればいいのに」
 と、ため息をつくトリシア。
「あ、あなたにだけは、言われたくないですわ!」
 キャスリーンのどなり声が、ドーム型の天井に響きます。
「いくつか質問してもかまわないですか?」
 ギャーギャーわめき合うトリシアとキャットは放っておくことにして、レンはアムレディアに聞きました。
「ええ、もちろん」
 アムレディアは快くうなずきました。
「第一王女の生活も、キャットといっしょだったりする?」
 まず質問したのは、おしゃべりフクロウです。
「どうかしら? 私は、大臣や貴族たちとのお仕事で時間を取られることが多いけれど……」
 アムレディアはちょっと考え込みました。
「そうね。基本的には大して変わらないわ」
「けど、仕事の合間に城を勝手に抜け出して、アンリ先生と盗賊退治に行ったりするの。あれもやっぱり、仕事なのかなあ? 単なる息抜きのような……」
 レンがちょっと首をかたむけます。
「……何かおっしゃった、レン君?」
 アムレディアは笑顔のまま、レンの腕に触れました。
「い、いえ!」
 レンはあわてて飛びのきます。
「ほ、ほんと、何も言ってませんから!」
 実はアムレディアはレンのお行儀の先生。
 彼女には、レンもまったく頭が上がらないのです。
「はい、よろしい」
 レンが震え上がるのを見て吹き出しそうになったアムレディアは、小さくうなずいて話を続けました。
「お城は気難しい顔をした貴族ばかりで退屈よ。『星見の塔』にはもう行ったのかしら? それとも、これから?」
「これから行こうと思ってます」
 陰に隠れようとするレンに代わって、トリシアが答えます。
「じゃあ、アンリによろしくと。最近、忙しくてなかなか会えないの」
 アムレディアはほんの少し淋しそうな表情を浮かべ、窓の外、塔の方へと目をやりました。